ハンカチ持った?

こどもの頃、外に出かけるときに玄関でいつも母にかけられた言葉。

一緒に買い物に行ったある日、母がハンカチを2枚持ち歩いていることに気が付いた。
「なんで?」って聞くと
「今日はあなたと一緒だからよ。」
という答えが返ってきた。

わたしのため?

なんだかどうにもうれしくて、母と出かける時はわざとハンカチを忘れて行くようになった。
母が貸してくれた洗いたての綺麗なハンカチは自分のポケットから取り出したものよりも美しくて、不思議とあたたかく感じたからだ。

その後、いつの日か父がこんな話をしてくれた。
「ハンカチは普段ポケットやバッグの中に仕舞っておくだろ?だからこそ持つ人の心を表すものだと思っているんだ。
もちろん新品じゃなくていい。 使い込んであるのもかっこいい。味わい深くなるからな。
いざ取り出した時に心地良い清潔感がある。これが一番美しい。
そしていつでも誰かのために差し出せるようにもう1枚持ち歩くんだ。」

そんな独自の美学を持ちながらハンカチ製作に携わる父を尊敬した。 月並みな表現だけど輝いて見えた。

1枚は自分のため、もう1枚は誰かのため。

母は普段から2枚持ち歩いていたんだ。 わたしが一緒にいるその日だけは「わたしのため」のもう1枚になっていたんだ。

美しく小さな四角形の布にさまざまな想いが込められていることに気が付いてからハンカチはわたしにとっても大切で愛おしい存在になった。

時が経ち大人になっても 玄関を出るときに問いかけている。 自分に向かって。 かけがえのない大切な人に向かって。

「ハンカチ持った?」

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